005|月夜の剣士〜清十郎ヴァンパイア侍〜|小説

とっぷりと日も暮れた五ツ半。
ふらりと裏店に帰ってきた清十郎。
ほとんどの家はすでに灯りを落として寝静まっているようだ。
唯一ほんのりと明るいのは裏店の奥、なにやら怪しげな男の部屋だけだ。
どうも噂によると祈祷師だと言われているが本当か、
清十郎にはどんな生業でどうやって生活しているのかはよくわかっていない。

いつもながら、つっかえそうになる頭をひょいと下げながら
裏店の木戸を潜ると後ろから声を掛けられた。
件の経師屋、良蔵である。
「今お帰りですかい? どちらへ?」
「まあ、ふらりとな」と清十郎。
「お前こそ、こんな時間にどこへ行ってた」と問われて
良蔵は「なに、ちょいと小腹が空いたもんで」と陽気に答える。 ところが良蔵が清十郎の耳元で囁くように、まるで廻りに憚るような小声で話しかける。
「実はここんところ、ちょっと変わった事件がありやしてね」と。
夜、人通りのほとんど無い所で町の人間が襲われているという。
とはいっても、命を取られるような事では無く、気を失って倒れているのだが 気がついてみると、腕や首筋に噛まれたような跡がある。
立ち上がろうとするのだが、すこしふらつくのですぐには動けないが
それだけの事らしい。

「なもんで、あっしもあんまり夜は出歩きたくはねえんでやすが、
何分こらえきれねえもんで」と話す良蔵も何がどうなっているのかは 全く知らなそうである。

「ま、十分きをつけることだな」と清十郎に声を掛けられ
「旦那もお気をつけを」と陽気に返して家に戻る良蔵の後ろ姿を見ながら 考えに耽る(ふける)ような表情をする清十郎であった。