006|月夜の剣士〜清十郎ヴァンパイア侍〜|小説

南町奉行所同心、田之倉慎吾。
配下に岡っ引きとして辰三、さらにその下っ引きに千助。
先日、経師屋の良蔵がちらりと漏らした 例の一件を探索している。
いや、もちろん一人ではない。
当然ながら奉行所内の他の同心、岡っ引きも探っては居るが
何か引っかかりでもあるのであろうか、田之倉が最も熱心である。

今宵も・・・いままでの証言から夜に起きた事であるのは明白なので 見廻りも当然、夜という事になる。
何故、この類いの事件に熱心なのか・・・。
襲われた人物を調べていると 誰もが気を失っているのだが 大きな怪我はしていない。
ただ一つ、体の一部、大概は首筋もしくは腕などで有るが 噛まれたような跡がある。
それも二つの穴のような噛み跡が。

田之倉は以前、何かの書物で読んだ事がある。
西洋では人の生き血を飲む妖怪がいると言うことを。
「吸血鬼」と呼ばれるその妖怪は普段の見た目は、 人間と変わりなく、普通に生活をしている。
しかり、光に弱いという弱点が有る為に行動するのは夜である。

田之倉はその類いの話に非常に興味が有り、 手に入る限りの書物も読み漁っていたので、 思い当たる節があったようである。
が、まったく確証の無い話なので、
人に話すと変な目で見られそうなので、 まだ大っぴらにするわけにはいかない。
しかし興味深い事件なので、不謹慎かと思いつつ
頭の片隅ではそのようなことはあり得ないとも考えながらも 気持ちの昂ぶりを抑えきれずにいる。