剣客商売一 第四話「御老中暗殺」

剣客商売-御老中暗殺-ロケ地写真-下鴨神社
上記写真は、剣客商売「御老中暗殺」のロケ地「下鴨神社」内です。

 突然の雨がその事件を呼び込んだ。そう、雨が降らなければどうなったか。雨を避けるため茶店に飛び込んだ佐々木三冬。ゆっくりと茶を飲んで居る間にどうやら雨も上がり、雲間からは陽も差して来た。勘定を済ませ、店を出たときにある男の姿を見かけます。父である老中・田沼意次の御膳番を努める飯田平助である。ふらふらと町中を行く平助を目で追っていると、町人とぶつかる。「ぼやぼやしてんじゃねぇよ、抜け作〜」とは町人。「これは失礼」と頭を下げてしまう平助。その姿を見て軽く舌打ちをしたような三冬。それよりも気になる事が・・・。男の後を追います。町を外れて人気の無い場所にやって来た男。懐から何やら取り出します。じつはこの男、掏摸(すり)である。飯田平助から掏摸採った紙入れの中身を確かめようとしたところで声がする。「まて、いま掏摸採った物をこちらに渡せ」掏摸は声の主が女と見て侮り、懐から匕首を取り出し襲いかかりますが、あっさり投げ飛ばされます。「もう悪さをするな」と言いながら、倒れて呻いている掏摸の懐から紙入れを取り出そうとする三冬。「あ、ちょちょ・・・」と抗う掏摸に右の拳が鳩尾へ一発、当て落としてしまいます。

 川の袂、取り戻した紙入れの中身を確認する三冬。紙入れには小判で十両。その他に油紙で厳重にくるまれた・・・何やら薬のようである。三冬の表情には何やら不安の表情が。

 小兵衛隠宅。件(くだん)の紙入れを三冬が小兵衛に手渡し、どうしたものかと相談している。「飯田平助は三十石二人扶持、このような大金を所持しているとは」さらに気がかりは、油紙に包まれた薬。もしや田沼を毒殺しようとしているのでは、と考える三冬。ともかく紙入れと薬は小兵衛が預かり、調べてもらうということに。そしてこれからしばらくは田沼様お屋敷にて父上の身をお守りするよう伝える小兵衛。少々不満であるような三冬ではあるが、「秋山先生のお言葉とあらば」と承知する。「その飯田平助なる者、どのような顔をしておる?」「屋敷では平助が事を『歯抜け狸』などと呼んでおります」三冬と供に出かけると言う小兵衛。文字を習っているおはるは「三冬様と?」と疑心暗鬼ですが、「三冬さんは田沼様のお屋敷、わしは別の所じゃ」と聞かされ「いってらっしゃい」と一安心。
 ここは「武蔵屋」御用聞き四谷の弥七の店である。傘屋の徳次郎に呼ばれて慌てて戻ってきた弥七を待っているのは小兵衛。弥七と二人で二階の座敷で向かい合う。差し出される件の薬。知り合いの医者に確かめてもらったところ、確かに毒薬であった。そこで探索を弥七に依頼する。まずは平助の動きを探るように頼まれる。「歯抜け狸」と聞かされて、「狸?」と驚くが「狸面をした人間ということだ」と聞き一安心。

 田沼様お屋敷。三冬と向かい合うのは用人・生島次郎太夫。表御殿は女人禁制。「なに、三冬は女では無いなどと申されてな」と少々ボケてみますが、無表情に一直線に見つめる三冬にちょっとたじろぐ。「殿は喜んでおられましたぞ」と聞かされるが「望んでこの屋敷にまいったのではありません。食事も勝手に済ませます故、お気遣いは無用」と無碍もない。

 廊下をすたすたと歩む三冬。行き先は御膳番の控え所。飯田平助を訪ねるが非番であった。ところがそこにふらりと平助が現れる。なにやら捜し物をしている風情。「どうしたのだ」と声をかける。「顔色が悪いぞ」とも。「腹痛が・・・」ゆっくり休めと伝える三冬。

 田沼様お屋敷へ三冬を訪ねる者、秋山大治郎である。薬の鑑定結果を伝えにやってきた。「やはり毒薬である」と。平助の所在を尋ねるが「急病の届けを出して長屋で休んでおります」小兵衛からはもうしばらくお屋敷に滞在し、平助が出仕せぬ間は問題はないであろうが、十分にお気を付けて田沼の身を守っていただきたいと伝えられるが、なにやらまだまだ、いまいち納得がいっていない表情の三冬ではある。平助の長屋へ赴く三冬。「体の具合はどうだ」と切り出し、「お子は元気か」と訪ねる。信州に妻子を残してきている平助も寂しさを感じている様子。「父とは離ればなれに育った私も父のことをいとおしく思う」と心情を話す。今回の一件に関わるかもしれない思わせぶりな言葉とも取れる。

 外出する飯田平助。門から出てきたところ、後を尾行する人影。四谷の弥七である。行き先は一橋家控屋敷。かつて一橋家の家来であった平助は田沼意次に対する、一橋家の謀略に巻き込まれている。毒薬を無くした事を責められ、また「田舎に居る妻子の事も忘れるな」と脅される。一橋家控屋敷へ出入りする所を見届けた弥七は、その旨小兵衛に報告に向かう。

小兵衛隠宅にて大治郎とともにかつての田沼家と一橋家の関わりについて小兵衛から聞かされる。打ち合わせが終わり、おはるに酒肴を頼む小兵衛。「甘鯛の味噌漬けがあったな、あれを出そう。少し味噌が残っている方が塩気が効いてうまい」という。それって、第一話で三冬が持ってきた甘鯛ですか、小兵衛先生。

 再び田沼様お屋敷。三冬を訪ねた大治郎が手渡したのは、件の紙入れ。「薬はまだ父がもっておりますが、紙入れと金子はお返しいたします」と。そこで今後の子細を大治郎より伝え聞く三冬。

 お屋敷内の廊下を進む田沼意次。その行き先に控える者が居る。佐々木三冬である。「是非ともお耳に入れたき、大事がございます」何のことかと、また急にどうしたのだという表情の田沼に「お人払いを」と涙声で告げる。三冬の手を取り、「その話、聞かせてもらおう」と田沼。御膳番の控え所では、「殿が明朝、日本橋浜町の中屋敷へ移られる」との噂が。「殿の命を狙う者が居る。屋敷内でも大がかりな探索が行われるらしい」との話を耳にした平助は愕然とした表情となる。

 平助の長屋。玄関先に紙入れが落ちている。おいてあったと言った方が良いのか。それを見て慌てて拾い上げ、部屋に飛び込む平助。当然ながら中身を確かめますが、小判には目もくれず探す品は例の薬。しかし紙入れの中には薬だけが無かった。一橋家控え屋敷にて、紙入れを掏摸採られたことからすべてが仕組まれていたことなのかとも考え、「もう屋敷へは戻れません」と泣き崩れる平助に「何を今更。明朝、待ち伏せをし、一行の籠を襲う。おまえも来い」と引っ張り出される。
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 朝早く、田沼家上屋敷を出立する一行。籠に付き添うのは先頭が用人・生島。ほか数名と大治郎、三冬。隠密のお成りなので、裏道を通って行く。そこを狙って待ち伏せる一橋家の一団。籠が目前に迫り、大刀の鯉口を切る音が響く中、平助が叫びながら走り出す。「お逃げくだされ。待ち伏せでござる」しかし背後から一太刀を浴びせられる。一斉に襲いかかる一橋家の家臣。その中で「田沼意次、天誅」の叫びと供に籠に大刀を突き立てますが、その太刀は手応えが無く、籠が開く。現れたのは秋山小兵衛。「殿様がじっとしていては埒があかぬので、おびき出したのだ」と。至る所で斬り合いが行われ、小兵衛・大治郎と三冬により襲撃計画は水泡に帰すことと相成りました。倒れている平助を抱き起こす三冬。その腕の中で静かに息を引き取ります。

 不二楼のお座敷。田沼意次と用人・生島と向かい合うのは小兵衛・大治郎親子。「殿のお気持ちでござる」と差し出される金子を「いただいておきなさい」と大治郎に声を掛ける小兵衛ではあるが、大治郎は「は?」と。まるで「いったいこのやりとりは何だ」とでも思っているかの様な表情。「後で山分けにするのだから」と小兵衛に言われ、懐紙に押し包みありがたく受け取る。「その後、一橋家からは何も言ってきませんか」との小兵衛の問いには「無い」と答える田沼。しかし事が表沙汰になっては大騒ぎになるとも。それでも三冬がずっとそばにいたことを嬉しく思い、話を打ち明けてくれた時の涙が「わしの宝」と感慨深げである。

 不二楼の船着き場、料理人・長次の汁粉をいただくおはる。「ここは寒いゃ、中へ」と言う長次に「空が綺麗だから」と言うおはる。根岸の寮、父のぬくもりを手に感じ、「生涯の宝じゃ」と言い空を見つめる三冬。それぞれの想いや立場、表情を描いてこのお話はおしまい。

原作版小説 剣客商売第一巻 第七話 御老中毒殺

 原作との違い。まず表題がTV版では「御老中暗殺」ですが、原作では「御老中毒殺」となっております。また、もっとも大きな違いとしては、今後のお話に大きく関わりのある人物が登場します。飯田粂太郎です。粂太郎は飯田平助の一子。原作では田沼様お屋敷の長屋にて、平助と妻の米(よね)、粂太郎の三人が暮らしております。また平助は一橋家の控屋敷にて現一橋家の者達に命を奪われようとしますが、そこを小兵衛・大治郎・弥七に救われます。が、しかし自責の念に駆られた平助は自ら命を絶ってしまいます。妻も粂太郎も、ましてや田沼屋敷の人々もその理由をまったく知りません。なぜなら老中田沼様がこの件を一切表沙汰にしなかったからです。そして、粂太郎成人の暁には取り立てようとも思っております。粂太郎は元は井関道場で三冬と供に修行に励んでおりました。井関道場の解散の後、三冬が世話をし、大治郎に紹介することとなり、それから以後は秋山大治郎道場にて修行に励むこととなります。この後のお話においては随所に登場し、時には小兵衛の手足ともなって動く粂太郎であります。その他の大筋のお話はTV版・原作版とも差異はあまりありませんが、このお話にて初めて三冬と大治郎、また田沼意次と小兵衛が直接顔を合わせることとなりました。三冬が滞在する田沼屋敷の欅の間。お互い顔を見合わせて「あ、あの時の」「いつぞやは失礼を」と言葉を交わします。なぜなら、先のお話にて小兵衛隠宅からの帰り道を行く三冬を、大治郎が見かけ、その姿に瞠目していると「なんぞ用か」と詰問したのが、一番最初の出会いであったからです。物語の最後、田沼が小兵衛にこの一件に関する礼をする場面はTV版とは異なり、三冬を伴って遠乗りの振りをして小兵衛の隠宅を訪れ、そこで始めて顔を合わせて礼を言うことになっております。

剣客商売〜第四話「御老中暗殺」〜キャスト

秋山小兵衛(藤田まこと) 秋山大治郎(渡部篤郎)
おはる(小林綾子)
田沼意次(平幹二朗) 佐々木三冬(大路恵美)
弥七(三浦浩一) 徳次郎(山内としお)
生島治郎太夫(真田健一郎)
おもと(梶芽衣子)  おみね(佐藤恵理)
飯田平助(渋谷天外)