剣客商売一 第二話「井関道場四天王」

稲荷大社の初午の日。江戸の町を行く秋山大治郎。別に何か用があった訳ではなく、剣術修行で諸国を旅し、しばらくぶりに戻ってきたので、江戸の町を散策しておりました。多くの人で混み合う橋の上、子供とぶつかりますが、頭を下げる母親に「気にせずとも」とでも言いたげに会釈をする。子供も詫びた後、駆け出します。その先で町の人々の声がします。「暴れ馬だ〜〜」。馬を抑える大治郎が振り向くと暴れ馬に打ち当てられ、崩れた屋台・荷車の下敷きになりかけているのは先ほどの子供。「待っておれよ、今助けてやるからな」と倒れてのしかかっている荷車をおこそうとする剣客が一人。「お力添え申す」と助太刀に入る大治郎。無事に助け出された子供から、御礼にと風車を渡される。

 所変わって、とあるお店の縁台。酒を酌み交わす大治郎と剣客。お互い名乗り合い、親交を深めます。この剣客が渋谷寅三郎。井関道場四天王の一人です。佐々木三冬が共通の友人となり、その話題も当然ながら出て参ります。酒が大好きで未だに妻も子も無く、いつも酔っぱらっておる、などと申しております。「お止めになりたければ、簡単です。ただ飲まなければいい」と言う大治郎に「酒無くてなんの花実が咲くものか」とかえしてくるほどの・・・。

 所変わって小兵衛隠宅。おはるが関屋村へと出かけます。それを見送る小兵衛。「さて、鬼の居ぬ間にゆっくり寝かせてもらおう」と庭先でうたた寝をしております。ふと気がつくと傍らに三冬がおります。
「こりゃ驚いた。三冬殿いつ来られた」「ほんの少し前に。しばらくは先生の寝顔を拝見しておりました。」「こんな爺の寝顔を見てどうする、困ったお人じゃ」とやりとりをしながら「今日はまたどうして」との問いに相談事があると言う三冬。井関道場のもめ事について意見を伺いに来たと言う。
「田沼の父からも秋山先生のご意見を賜るように」と言う。囲炉裏端へ案内する小兵衛。「おはるが留守でたすかったわい」の台詞は誰にも聞こえないような小声。聞けば井関道場の後継者争い。井関先生亡き後、四天王と呼ばれた四人が道場を支えてきたが、いつしかそれぞれに派閥の様なものが出来上がり、後継者を選び道場を継ぐようにしなければまとまりが付かなくなってきている様子。
三冬には道場を継ぐ意志は無さそうであり、三冬を除く三名の様子を聞いた小兵衛、後日道場の稽古を陰から見ております。

 不二楼のお座敷。田沼意次と用人、生島次郎太夫と秋山小兵衛。井関道場についての話。
後藤九兵衛は「おのれの剣を売って名声を得ようとする」と小兵衛は見て取り、小沢主計は「名門の道場を継ぐに当たって野心満々、賄賂も辞さず」という感じが三冬に嫌われる。残る渋谷寅三郎、力量は第一と見受けられるが田沼も気にするように、酒癖が悪い。
道場主となれば酒も控えるであろうか・・・と話している最中、おもとが急を知らせる。「井関道場のご門人の方が殺されなさったようです。四天王のお一人、渋谷寅三郎とおっしゃる方が」と。
別室にて小兵衛は四谷の弥七から詳しい状況を聞く。道場そばの暗闇坂で、石垣の上から子供の頭ほどの石をぶつけられ、倒れたところを襲われたようである。

 根岸の寮、小兵衛が三冬を訪ねる。「頼まれた事は忘れてはおらぬ」と言い、今後の対策を三冬に伝える。まずは当分の間、息子の道場へ通ってもらいたいと伝える。何をするのか・・・小兵衛と三冬が激しく打ち合った後、三冬が勝つ。その型をつくろうと言うのである。

 大治郎の道場、渋谷からもらった風車を見つめる大治郎。道場では小兵衛と三冬が稽古をしている。そこへおはるが実家から戻ってくる。「家に誰もいないから、こっちかと思って」。見事な鯰を携えている。
小兵衛が居ることを聞いて安心したのもつかの間、三冬が来ていると聞いて「むっ」とする。とはいえ三冬に「ご亭主様をお借り受けしております。ご容赦くだされ。」と言われちょっと安心をしたようで。
そこで小兵衛、鯰の食べ方・料理法を事細かにおはるに伝える・・・食いしん坊な小兵衛先生である。
その間、弥七は探索を続け、傘屋の徳次郎から小沢の動きを知らされ、探索に出る。なじみの料亭「万屋」の隠し部屋で小沢達の企みを聞き、小兵衛・大治郎・三冬に伝える。

 翌日、井関道場へ出向く小兵衛。そこでは念流・土田政右衛門と名乗り、三冬に立ち会いを申し込む。三冬がすぐに承諾し、試合が行われる。ここでかねてからの打ち合わせ通り、三冬が勝ち、小兵衛は三冬の門人となる。
そして後藤、小沢と三冬の三人に田沼意次より道場の主を決める試合を行う事が告げられる。田沼が「それぞれの門人を代理とせしめても良い」と告げるや、小沢はやる気満々「それにはおよびません」と答えるが、三冬は「門人の土田政右衛門を出しまする」と答える。
ここまでを含めて小兵衛の計画の内だったのでしょうか。

 後日、田沼老中立ち会いのもと、道場にて試合が行われ、まずは後藤九兵衛と土田こと秋山小兵衛の試合から。
最初は撃ち合いますが、その後小兵衛の気合いに押されて上段に構えた木太刀を打ち込め無くなる後藤。それでも強引に打ち込むのをふわりと躱した小兵衛に打ち返され、胴を払われて敗れてしまいます。それを控えの間で聞いた小沢は「後藤ごとき、俺は佐々木三冬より下と見ていた。」と言い、「面白い立ち会いを見せてやる」と気合い十分、小兵衛と相対します。この試合はさすがに小沢が打ち込みますが、小兵衛に軽く躱されつづけます。カッとなる小沢に対し、見透かしたかのごとく小兵衛がニヤリと笑いかけます。ますます頭に血が上ったような小沢が打ち込む所を躱し、小兵衛の木太刀が小沢の右肩を打ち据えます。
これにて井関道場の後継者は名も井関三冬とあらためて佐々木三冬が努めることと相成ります。

 小兵衛隠宅にて鍋を囲む小兵衛と大治郎、弥七。小兵衛に小沢の処遇を訪ねる弥七ですが、小兵衛は「ほうっておけ」と言います。が、弥七は「それなら小沢の方がもっと罰当たりではないですか」と詰め寄りますが「井関先生が大恥をさらすことになる」からと申します。「いずれ天罰が下ろうさ、剣術の神様の罰がな」と言い、ちらっと大治郎の方を見やる小兵衛。そして何も語らず一点を見つめる大治郎。

 「もう一軒まいりましょう」と上機嫌で夜道を行く、小沢主計とその門人二人。夜道ですれ違い、立ち止まる大治郎。「一刀流、小沢主計殿とそのご門人方ですな」との問いに続いて「亡き友、渋谷寅三郎の仇討ち」と告げて門人二人を鮮やかに切って捨て、小沢と相対します。激しいつばぜり合いの末、討ち果たします。その時、大治郎の襟首にはあの時の風車が。

原作版 剣客商売第一巻 第四話 井関道場四天王

原作版ではこのお話は第四話となります。第二話に「剣の誓約」があり、嶋岡礼蔵の遺髪を携え、大治郎は大和へ向かっておりますので、不在です。よってお話は小兵衛と三冬の間にて進んで参ります。道場のもめ事を相談に来る下りはおなじ。違う所は原作では渋谷寅三郎は結構偏屈な人と描かれています。というより、稽古があまりに厳しく、門人が近寄らないためふてくされているような感じも受けます。渋谷殺害の一報を小兵衛に伝えに来るのは三冬。そしてTV版と同じく策を巡らし、名を変えて道場に乗り込むのもTV版と同じ。違うのは大治郎不在ゆえ、稽古は小兵衛隠宅の庭先。三冬に対し良い感情の無いおはるもただならぬ気配を感じ、息をのんで見守ります。そのほかはおおむねTV版との違いはございません。当然ながらラスト、大治郎が小沢を成敗する場面はございませんが、かわりに「剣術の神様」が天罰を下してくださいます。さて、だれでしょうか・・・というところで、このお話はおしまい。

剣客商売〜第二話「井関道場四天王」〜キャスト

秋山小兵衛(藤田まこと) 秋山大治郎(渡部篤郎)
おはる(小林綾子)
田沼意次(平幹二朗) 佐々木三冬(大路恵美)
弥七(三浦浩一) 徳次郎(山内としお)
生島治郎太夫(真田健一郎)
おもと(梶芽衣子) 長次(木村元)
おみね(佐藤恵理) 嘉助(江戸家猫八)
渋谷寅三郎(梨本謙次郎) 小沢主計(鷲生 功)