上記写真は、剣客商売「父と子と」のロケ地「京都大覚寺」です。
時の老中、田沼主頭意次の中屋敷。年に一度開かれる、非公式の剣術の試合。これは田沼様が剣術を好み、市井の剣客の事に関心を寄せていることの現れでもあります。ここで七人抜きを果たし、一躍その名を広めたのが、秋山大治郎。無外流の剣客、秋山小兵衛の一子であります。小兵衛自身も凄腕の剣客であり、かつては四谷・中町に道場をかまえておりましたが、いまは鐘ヶ淵に隠宅をかまえ、悠々自適の暮らしであります。
根深汁と大根のお漬け物、麦飯で食事をする大治郎の道場へ小兵衛が現れます。小兵衛が言うには「侍女のおはるに手を付けてしまった」。「えっ?」という表情の大治郎。「道場の看板さえ出しておけば、門人も集まるであろう。これからはお互い、勝手気ままに過ごそう」という小兵衛。とはいえ、内緒にしておくのも・・・と言いながら事情を説明する。「ある日、豁然と女体に目覚めてのぉ。今は剣術よりも女の方が好きじゃ」と。五十九歳の小兵衛に十九歳のおはる、二十五歳の大治郎はおはるを「母上」と呼ぶことになります。
その道場にある夜、一人の侍が奇妙な依頼を持って訪ねてまいります。五千石の大身旗本永井和泉守尚恒の用人、大垣四郎兵衛であります。「人の両腕を叩き折っていただきたい」。とはいえ詳細は明かさぬ大垣に対し、大治郎はその依頼を断ります。
翌日、父小兵衛の隠宅を訪ねる大治郎。おはるといちゃつく小兵衛に昨夜の一件を打ち明けます。「受ける気にはならなかったのかえ」小兵衛は問います。「門人が集まらねば、干上がってしまうぞ。何事も商売だからな」と。とはいえ大治郎はすでにこの話を断っているので、いまさら気にすることも無いといった風情。しかし小兵衛はこの話が気になる様子。「橋場の不二楼の提灯をもっておりました」という大治郎の言葉を聞いて、なじみである橋場の料亭、不二楼へ。そこで、女将のおもと、料理人の長次から事情を聞いて、その探りをかつての門人、御用聞きである四谷の弥七へ依頼します。永井家下屋敷の中間部屋の博奕場にて永井家の若様の縁談にまつわる話を聞き出して参ります。その帰り道、永井家の用心棒を務める浪人・浅田虎次郎に襲撃されますが、そこはかつての小兵衛の門人、剣を躱して事なきを得ます。小兵衛に伝えたのは「永井家の若様に縁談が持ち上がっておりますが、その相手というのが御老中、田沼様の隠し子で」
その後、小兵衛は田沼様とつきあいのある不二楼の女将、おもとを訪ね、話を聞き出します。「それは三冬様の事ですね」とおもと。妾腹の娘である三冬を佐々木家に養女に出し、奥方の気も落ち着いたころ、江戸へ引き取ったのであると言う。ところが今度は三冬様が納得いたしません。お屋敷を出て叔父の書物問屋、和泉屋吉右衛門の根岸の寮にて暮らしております。
そこで三冬様、登場。道場での稽古を終え、汗を流して和泉屋へ。いろいろと心配する叔父夫婦を尻目にパクパクと夕餉を頂いております。「今度の事がまとまれば、いやでも田沼の屋敷に戻らねばなりません」。そう言うものの「ま、もっともそれには私の夫となる方が、剣を持って私を打ち負かした時の事ですが・・・」と付け加えることも忘れておりません。寮への帰り道、右手に提灯、左手は懐手にさっそうと夜道をいきますが、途中雪が降ってまいります。空を見上げておりますと雪とは別の物が振ってまいります。投網に絡まれて身動きできなくなった三冬を浪人どもが襲います。そのうちの一人が「網を取りのけろ。両腕を叩き折ってくれる」と刀を構えたところ、暗闇を引き裂いて石塊が飛んでくる。そこに現れた小兵衛が浪人どもを打ち倒し追い払います。「大丈夫かい」声を掛けますが、三冬は答えません。「礼を言わぬのか」「かたじけない」「心がこもっておらぬな」「どうせよと言うのだ、秋山殿」とやりとりがあり「とんだ暴れ馬だ」「馬?!」と。「気をつけてお帰り」と言い置いてさっそうと姿を消します。
後日、大治郎の道場へ三冬が現れます。「秋山小兵衛先生にお会いしたい」とはいえ道場にはおりませぬ。そのことを伝えても「確かな筋より聞いて参った」といって引き下がりません。しかたなく鐘ヶ淵の隠宅へ案内します。その道すがら何やら気配を感じる大治郎。しかしその場はやりすごし小兵衛隠宅へ。庭先で薪を割っている小兵衛に引き合わせる大治郎。先ほどの気配が気になり、すぐさま戻っていきます。そこで先夜の浪人達とを懲らしめます。「無外流に峰打ちは無い」相手の腕や足の筋を切ることで相手を倒す技が繰り出されます。
小兵衛隠宅の居間・・・向かい合う小兵衛と三冬。先夜の礼を述べ、「秋山小兵衛先生の名は存じておりましたが不意の事で」と三冬。剣客としての覚悟を問われるが「父上の元へ帰ってはいかが?」との問いには「父が別の人であれば・・・汚らわしいと思います」「男は嫌いかぇ」「嫌いです。でも、秋山先生は別・・・」もじもじする三冬にどぎまぎする小兵衛。視線の先にはおはるの姿が・・・。
浪人どもの隠れ家。大治郎に成敗された浪人どもがたむろしておりますが、そこで永井家用人の大垣が手切れ金を渡し、「当家と縁を切ってもらおう」と告げます。浅田虎次郎のみ、剣客として結着をつけると決意しております。
田沼家中屋敷にて試合の当日。田沼意次、その用人の生島次郎太夫に加え、秋山小兵衛が臨席し、審判を大治郎が務めて試合が行われますが、案の定、永井家の若様である右京は三冬にあっさりと敗退いたします。
その帰り道、小兵衛・大治郎親子を待ち伏せる、浅田虎次郎。果たし合いを申し入れます。「親子ともどもに、いたぶってくれた仲間の恨みがある」と告げ、小兵衛が立ち会うこととなります。真剣での立ち会いの下、浅田は小兵衛に敗れます。「こやつもやはり剣客よのぉ。商売に徹し切れなかった哀れなやつよ」とは小兵衛。
後日の小兵衛隠宅。庭先で焚き火をしている小兵衛と訪ねてきていた大治郎。おはるは縁先で小兵衛の羽織を繕っている。「あちこち泥だらけ・・・行き倒れた大男を埋めてきたなんて嘘でしょ〜、どうせどこかでころんだんでしょ」「ああ、嘘だ、嘘だ、大嘘だ」と小兵衛。そこに「昨日の御礼にうかがいました」と三冬が現れる。「これは田沼の父から」と大きな甘鯛を小兵衛に見せる。そしておはるに鯛を差し出しながら「お女中、これを裁いてもらいたい」と。「あたしはお手伝いの女じゃありません。れっきとした女房だ」と応酬します。困り果てたような小兵衛と大治郎。今後しばらくは、大川を渡って何かと訪ねてくる三冬が悩みの種になりそうな小兵衛である。
TV版では第一話は「父と子と」となっていますが、原作では「女武芸者」。タイトルからも分かるとおり秋山小兵衛と佐々木三冬の出会いを中心に描かれております。さらに小兵衛と田沼意次は最初の段階では名は知っているが、面識は無いという設定。そして三冬の身の上を小兵衛に語るのは牛堀久万之助であります。
田沼様中屋敷にて剣術の試合が行われ、大治郎が勝ち抜き江戸の剣術界にその名を知られるようになってまいります。そこへ永井家御用人が大治郎の道場にてある依頼をいたします。「人の両腕を叩き折っていただきたい」。断るのはTV版も同様、和泉屋から寮にもどる三冬が襲われ、小兵衛が助けるところも同じ。とはいえ、大治郎と三冬に接点は無いまま、お話は進みます。お二人の出会いはまた、後ほどに。また不二楼の女将、おもとも原作では座敷女中であり、不二楼には別に主人夫婦がおります。おもとは後に不二楼の料理人、長次と夫婦となり「元長」という料理屋を開き、数々のお話の舞台ともなります。
原作版では浅田虎次郎は最初の三冬襲撃の際にも参加しており、小兵衛にこらしめられます。その際に打ち倒された浪人の一人を小兵衛が捕らえ、刺客がだれであったのかが判明することとなります。その後、三冬が小兵衛隠宅を訪ね、一昨夜の礼を伝えつつ、どぎまぎするシーンではおはるは大治郎の道場へ届け物に出かけており、不在。そこへ先夜の浅田虎次郎を筆頭に浪人どもが襲撃をかけてまいります。仲間が捕らえられ、それにより氏素性が知れたと思しきことで、小兵衛を始末しなくてはとの思いで襲撃をかけましたが、そこで小兵衛と三冬によって浪人どもは退治され、一件落着。おはるが隠宅へ戻った折りにはすべてが片付けられた後で、「行き倒れた大男を埋めてきた」「うそですよ〜そんなの〜」の会話もございます。ですので、TV版での最後、果たし合いの場面は原作にはござりません。
秋山小兵衛(藤田まこと) 秋山大治郎(渡部篤郎)
おはる(小林綾子)
田沼意次(平幹二朗) 佐々木三冬(大路恵美)
弥七(三浦浩一) 徳次郎(山内としお)
生島治郎太夫(真田健一郎)
おもと(梶芽衣子) 長次(木村元)
おみね(佐藤恵理) およね(江戸家まねき猫)
牛堀九万之助(竜雷太) 嘉助(江戸家猫八)
永井和泉守尚恒(勝部演之) 大垣四郎兵衛(鶴田忍)
浅田虎次郎(遠藤憲一)